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笹森は、混み合い、熱気のこもったバスの中でも、涼しげに立っていた。
窓の外を眺め、静かに吊革につかまっている。
俺は、少し離れた場所に立ち、人ごみの隙間から、彼女の横顔を見つめていた。
『美羽は、ヘンタイ、だから。』
桐生の言葉が、頭をかすめる。
…ヘンタイ、って…。
凛と立つ彼女には、最も縁遠い言葉に思えた。
バスの中を見回す。
髪を長く伸ばした庄司が、バスの一番奥に立っているのが見えた。
女の肩に手を回し、耳もとで何か囁いては、くすくすと笑い合っている。
女の方は見かけない顔だった。きっと、2人で過ごした、朝帰りなのだろう。
『美羽は、1年の時から、庄司くんのオモチャだったから。』
……どういう意味なんだろう。
2人が付き合っているという話は、今まで一切、耳に入って来たことがない。
隠していた、とは思えない。
庄司は、女が出来るたびに、堂々と周りに彼女の話を披露するタイプだ。
それは、二股のときも三股の時でも変わらない。
桐生が嘘を言っているとも思えないし…。
笹森に視線を戻し、彼女の異変に気付いた。
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