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「おかえり、哲哉。」
玄関を開けたとたん、母がリビングからひょこっと顔を出した。
「……ただいま。」
俺は少し驚いていた。
玄関には、夕飯のいい匂いが立ちこめている。
靴を脱ぎ、揃えて立ち上がると、急に空腹感を感じた。
リビングに入ると、煮物のような、醤油の香りが一層強くなる。
母は、楽しそうに味噌汁の味見をしていた。
「哲哉、ちょっとこっち、いらっしゃい。」
鼻歌さえこぼれそうな、上機嫌。
「なに。…今、手洗ってくるから。」
「いいから、ほら、味見。」
小皿を差し出され、仕方なく受け取って口にする。
「…うまい。」
「ほんと?」
母は嬉しそうに、つま先歩きで鍋の前に戻る。
…まあ、機嫌がいいのはいいことだ。
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