第2章

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「おかえり、哲哉。」 玄関を開けたとたん、母がリビングからひょこっと顔を出した。 「……ただいま。」 俺は少し驚いていた。 玄関には、夕飯のいい匂いが立ちこめている。 靴を脱ぎ、揃えて立ち上がると、急に空腹感を感じた。 リビングに入ると、煮物のような、醤油の香りが一層強くなる。 母は、楽しそうに味噌汁の味見をしていた。 「哲哉、ちょっとこっち、いらっしゃい。」 鼻歌さえこぼれそうな、上機嫌。 「なに。…今、手洗ってくるから。」 「いいから、ほら、味見。」 小皿を差し出され、仕方なく受け取って口にする。 「…うまい。」 「ほんと?」 母は嬉しそうに、つま先歩きで鍋の前に戻る。 …まあ、機嫌がいいのはいいことだ。 .
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