第2章

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「今日は、早いじゃん。…どうしたの。」 「うん、後でまた、会社に戻るんだけど、ね。」 「あ、そう。」 たまに、母はこうやって、食事を作るために早目に帰って来る。 仕事に没頭していても、ふと、家で店屋物を食べる寂しい2人の息子の事が頭から離れなくなる事があって、いてもたってもいられなくなるのだそうだ。 「今日はね、…手羽元の醤油煮。…それと、大根サラダとー、」 「わかったわかった。…まず、着替えてくるから。」 献立の説明を遮られ、不満そうに頬を膨らませる母を残し、俺は部屋に向かった。 ……まあ、…あれで、愛情は、人一倍あるんだよな。 俺は、ふと笑みを漏らした。 母は、化粧品の通販会社を経営している。 はじめは、主婦の手作り化粧品、というウリで小さく始めた会社だったが、今では自然派化粧品の代表的ブランドとして、売り上げを伸ばしていた。 もともと、商才はあったのよね。 母は、口癖のように言うが、同時に、周りの人たちの応援や犠牲がなければ、この会社はここまでになっていない、と必ず付け加えるのだった。 彼女が、わたしの3番目の息子、と呼ぶこの会社は、一年前に実現した中堅の化粧品会社との提携によって、今後、さらに大きく育っていく、らしい。 .
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