第2章

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母が、手を止める。 ゆっくりと振り返って、 「違うわよ。…今日は、本当に仕事。」 母は、いつになく真剣な表情で言った。 「べつに…そんな、深刻にならなくても。」 俺は笑顔をつくったが、母は表情を崩さない。 「…ママはね、…仕事以外では、あなたたちとの時間を優先する。 これは、自分がそうしたいから、しているの。 今は、本当に忙しくて、デートしてる時間なんて、ないのよ。 家にいられる時間が、ママにとってはすごく大切なんだから。」 「わかったよ…。ごめん。」 俺は、目を合わせずに言った。 自分が、つまらない事を言って母親を困らせる小さな子供のようで…。 恥ずかしさでいっぱいになる。 「…哲哉。…ママのこと、信じてね。 …ママは、あなたたちに言えないような付き合いは、絶対にしないから。 あなたたちのうち、どちらかが少しでも嫌だって思っているなら、再婚は取りやめる。 それは、彼もちゃんと分かってくれてるの。 ママが一番大切に思ってるのは、二人だってこと。」 「……わかってる。…反対なんて、してない。」 俺は、母の目を見て、言った。 「ただちょっと、…母さんの機嫌があまりにも良すぎるから、からかっただけだよ。」 母は、やっと表情を和らげた。 きっと、…彼女の中で、今一番伝えたかったことが、さっきの俺の一言で、吹き出したのだろう。 「……機嫌がいいのは…。」 母は、にこっと笑った。 「哲哉の顔を見ながら、久々にご飯食べられるから、よ。」 「…バカじゃないの。」 俺は少しくすぐったくて、くるりと母に背を向け、小皿を取り出した。 .
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