第2章

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近所のドラッグストアは、お昼前という時間を迎え、少し混み始めていた。 ガラス越しに店内を覗くと、数組の家族連れが大きなカートを引きながら、トイレットペーパーや洗剤を積み込んでいるのが見えた。 俺は、自動ドアから店内に入り、まっすぐ風邪薬のコーナーに向かった。 歩いた事で、頭痛はさらにひどくなっていた。 とにかく、早く薬を買って帰ろう…。 そう思いながら、化粧品コーナーを突っ切ろうとした時だった。 陳列棚の前に、私服姿の笹森美羽の姿があった。 あわてて棚の陰に隠れる。 …なんで、隠れたんだろ。 昨日の、バスの中での彼女の恍惚とした表情が浮かびそうになって、急いで思考を停止する。 もう一度、彼女に視線を戻し、俺はハッとした。 笹森は、避妊具のコーナーに立っていた。 思いつめたようにじっと、並んだ箱を見つめている。 ゆっくりと手を伸ばし…手に取った箱を、そのまま、肩に下げたバッグに入れようとした。 「……だめだよ。」 すぐそばで俺の声がしたからか、彼女がびくっと体を揺らした。 こちらを振り返る視線を受けながら、箱を持つ彼女の手に自分の手を重ねる。 そして、そのままそっと、箱を棚に戻した。 繋いだままの手を引いて、出口に向かう。 彼女は、黙って付いてきた。 .
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