第2章

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俺は、わけがわからないまま、彼女の顔を見ていた。 「…わたしは、ただの…オモチャなの…。」 彼女が、頬を染める。 ドクン、と心臓が跳ねた。 …彼女は…。 オモチャである自分を、悦んでいる。 そして…命令が下される事を、期待している。 …主人の帰りを待つ、…ペットのように。 「ねえ…春山くん…。」 笹森が、甘えるような声で、言った。 俺は、彼女の顔から目を反らすことが出来なかった。 あの、顔だ。 あの、放課後の教室。 男を待つ、大人の、女の…。 「…今の事、黙ってて。…誰にも、言わないで…。」 「笹…。」 「黙っててくれたら、わたし、…何でもするから…。」 笹森の冷たい手が、俺の手に触れた。 少しだけ茶色がかった栗色の瞳で、…怯えるように、俺の顔を覗きこむ。 「…春山くんの、言うとおりに…なんでも…。」 『美羽は、ヘンタイ、だから。』 『あの子は、普通の人じゃ、無理なのよ。…』 ……俺を、誘う目。 甘く、絡みつく……。きれいな瞳。 …いじめてほしいと、…ねだるかのように。 『……女は、本能として、自分の欲望を満たすためだけに生きている。』 「…いいよ。」 彼女のまつげが、ぴくりと揺れる。 「黙っててやるよ。 そのかわり…。」 チャリ、という金属音が、笹森から聞こえた。 「俺のオモチャに、なってよ。」 俺は、彼女の求める言葉を、口にしていた。 .
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