第3章

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月曜の朝。 土曜の熱は、あの後さらに悪化し、たった一人で一晩中うなされ続けた。 解熱剤を買うタイミングを逃したのが…まずかった。 病み上がりで軋む体を引きずって、バス停を目指す。 角を曲がって、いつもの長い列に目をやると…。 列から少し外れたところに、笹森美羽が立っていた。 こちらに気付いて、はにかんだような笑顔を見せる。 近づいていくと、歩調を合わせるように、笹森も列の最後尾に向かった。 「…おはよう。」 「…おはよ。…どうした?」 「うん…。」 列に2人で並んでから、笹森は小さな声で、ぽつりと言った。 「…待ってた。」 唐突に、顔が熱くなる。 しまった。…油断した。 俺は、真っ赤に違いない自分の顔を想像し、悔やんだ。 「……。何か、用?」 極限に感情を抑えながら、興味がないふりをして、目線を反らす。 笹森は、手に持った紙袋を遠慮がちに差し出した。 「これ、…よかったら。」 受け取って、中を覗く。 「これ…。」 紙袋の中には、きちんと布に包まれた細長い箱と、箸が入っていた。 「お弁当、なの…。」 俯いたまま、さらに小さく、呟く。 「…土曜日、…手、熱くて…。 熱、あったみたいだから。 …パンよりは、体に優しいかなって、思って…。」 言いながら、顔を上げない笹森を見つめる。 ふと視線を感じてそちらを見ると、2人の後ろに並んだ、いつもの大きなサラリーマンまで、俺たちを見て赤面している。 ……。まるで、青春みたいだ。 「…ありがとう。」 俺の声を聞いて、彼女はようやく顔を上げ、少しだけ微笑んだ。 その顔を見て、俺の顔はさらに、熱を帯びた。 .
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