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「はい、それじゃあ、……希望者!いる?」
担任の久保葉子先生が、そう言って教室を見まわした。
「いない、わよね。…みんな、忙しいものねえ。」
先生は暫く考えていたが、くるりと背を向け、つかつかと教壇に向かった。
何やら、紙切れを準備している。
……くじ引き。
俺は、頬杖をついたまま、その様子をぼんやり見ていた。
黒板には、横書きで、『映画鑑賞会』と書いてあった。
前学期と後学期、各1回ずつ、年2回行われる、全校生徒による映画観賞会。
体育館の大型スクリーンに、映画を映写機で映し出す、本格的な上映会だった。
その候補作品を選ぶ当番が、たまたま葉子先生の受け持つ、このクラスに回って来たらしい。
「係になった人には、何作か観て、候補作品を5本ほど上げてもらいたいのね。
その中から、ふさわしいものを先生たちが会議にかけて決めます。
あまりたくさんの人数でやると、まとまらなくて混乱するから、男女各1名ずつ。
だれか、映画が大好きな人、立候補してくれる?」
毎回、そんな風に作品が決められているとは知らなかった。
勝手に先生たちが決めていると思っていたのに。
「先生が決めりゃいいじゃん。」
だれかが面倒そうに言う。
「昔はそうだったんだけどね。
…やっぱり、先生たちが選ぶものって、つまんないのよね。
ほとんどの生徒が、寝てた。
…だからこそ、みんなのセンスが必要なわけよ。
…はい、それじゃあ、希望者、いる?」
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