不埒な純情

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「…他に方法あんじゃんか。」 「それであんたが満たされればの話だけどね。」 「無理。でも満たされなくてもいい…。」 「そう言ってられる時間の方が少ないですけどね。実際。」 「いいの…それでも。」 「んふ、可哀想。」 目を伏せがちに俯く彼をソイツは嘲笑する。 その歪んだ微笑みは自分すら含まれていることは重々承知していた。 「…ダレガ?」 「俺もアンタもあの人も。それと夜専用。あと、おまけで昼専用ですかねぇ。」 「全員かよ」 「まぁね、本当に可哀想なのはアナタですけど。」 「……萎える、 慰めるなら集中して。」 彼のボソボソとした我が儘にニヒルに笑いながら失望する。 「分かりましたよ。 どうせ俺はアンタの犬だから…」 ソイツが集中すると、 彼の普段から泣きそうな顔はより一層際立つ。 「可愛い。ねぇ…、 そのカワイイ手で癒やして?」 「…癒されないくせに。 傷だらけのご主人様。」 「いいの…アンタだって おいらのこと好きでしょ?」 「キライだよ。選んでくれないから。奉仕生物じゃないからね。 ペットは。」 「餌ならあげる。」 「悪いけど、 俺はマズい飯は嫌いだよ。」 ソイツの目は綺麗で澄んでいるが笑うことは決してしない。 「甘くしてくれるなら、 美味しいよ…?」 「御褒美はくれるの?」 「いっぱい。あげるから… ね、ちょうだい?」 「んふふ、その話のった。しょうがないから、たくさんやるよ。」 ソイツは知っていた。 結局その交渉に自分は負ける。 そして、彼の勝利は諦めであって喜びでないことも。 勝敗はこの中には無い。 やるせないこの気持ちは お互いに掻き消してしまおう。 .
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