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黒板に書かれた番号表を見て自分の席に着くと、彼――嘉は軽い溜息をついた。
……疲れた訳ではない。
否、勿論通勤ラッシュにもまれた身体は重たかった。
が、この模試を受けなければならない憂鬱さに比べれば楽なものだと嘉は思った。
教室の中はもう殆ど全員が揃っているようだった。
いかにも勤勉そうな顔立ちの生徒達。各々参考書や単語カードを見ている。
――今更やって変わるモンかね。心の中で軽く毒づきながら欠伸を噛み殺し、ふと斜め前の生徒を見た。
参考書と睨み合いながら勉強をする者が多い中、その人物は全く違った。
しゃんと伸びた背筋。
淀みなくキーボードの上を舞う指先。
眼鏡の奥に光る落ち着いた知性の色……。
「……へぇ」
思わず口に出してしまう程に彼の雰囲気は鋭く、他を圧倒していた。
嘉の感嘆の声が聞こえたのか、その眼鏡の青年の手が止まり、嘉の方を見た。
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