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「え…?だれ?」
男はじっとミハルを見つめたあと、フッと一瞬笑ったように見えた。
「こら!君たち、始業のベルは鳴ったぞ、早く入りなさい」
遠くから声が聞こえた。
「あっ、生徒会長だ!」
「笹原先輩がこっち見てるよ」
由香に言われてやっと、男から視線をはずしたミハル。
「行こ!」
由香に促されて歩き出した時、男の姿はもうそこにはなかった。
「…あれ?」
辺りを見渡した時、足元にキャンキャンと絡みつく小さな犬とともに角を曲がる影が見えた。
「何してるの、ミハル!行くよ。遅刻したら笹原先輩に怒られちゃうよ」
立ち止まったミハルを引っ張って由香が言った。
「う、うん」
誰だったんだろう?
約束?
私が忘れてる?
記憶を引っ張って思いを巡らせてみたが、何もわからなかった。
由香と一緒に走り出した先には、この学校の生徒会長、笹原和樹がいた。
笹原の脇を抜け玄関を入り、靴を履き替えていた由香とミハルに笹原が近づいてきた。
「おはよー、ミハル。あそこで何をしてたんだい?」
「おはようございます、いえ別に…」
答えを濁すミハルに、由香は説明した。
「なんか、捨て犬らしくて…。かわいくて、でもどこか行っちゃいました」
「そう、捨て犬…」
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