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その何番目かに呼ばれた名前に、驚愕した。
「里山春香」
「……はい」
俺は、小さく返事をしたヤツがどこかと見回すと、実習生の俺に何の興味もなさそうに外を見ていたヤツに行き当たった。
そうか。
彼女の名前は、里山春香か。
すっかり忘れていた名前。
でも、忘れられない名前。
俺は、逆算していくと、確かに、ランドセルを背負っている年令であることに気づいた。
やっぱり、彼女があの里山春香なのか?
あの子は、あの時、弾けるほど眩しい笑顔を俺に向けてくれたのに、今は、その表情は、暗い。
食い入るように見つめていた俺の視線に気づいたのか、一度だけ、窓の外に向けていた視線を、俺に向けた。
面影は、かすかに残っているような気もするが、別人にも見える。
俺を見ても、何の反応も示さないまま、再び、彼女の視線は、外へ向いていた。
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