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夜の街。
一人の少女が駆けていく。
はぁ、はぁ、と白い吐息が吐き出されては空に昇り、そして消えていく…。
少女の赤いランドセルのカチャカチャという音だけが歩道に響いていた。
ふと、前方の横断歩道の信号が点滅した。
「あ、だめ」
少女が声をだし、足が速まる。
だが、少女が横断歩道に着くと同時に信号が赤に変わる。
待ちきれないといった表情の少女。
少し肌寒くなった夜風に、足踏みをしたり体を震わせたりして、信号が青になるのを待つ。
今少女が駆けてきた歩道の横を、スポーツカーが制限速度を大幅にオーバーして走ってきた。
携帯電話で話しながらの運転手。
「おお、今日メル友とやってきたんだよ。ああ?もちろん、タダよ。しらっばくれてればだいじょぶよ。写真撮ってやったしな。はははは」
横断歩道の信号が青に変わる。
少女が満面の笑みを浮かべ駆け出す。
…と同時に今のスポーツカーがものすごいスピードで左折してくる。
がその拍子にドライバーは携帯を落とした。
「お、………あぁ、わるいわるい、携帯落としちまって」
ドライバーは携帯を拾い再び加速する。
だが、ドライバーが携帯を拾っている間にスポーツカーは少女と接触していた。
少女が慌てて足を止めたため、接触したのはバンパーの角だけだったが、少女を死にいたらしめるにはそれで十分だった。
はじき飛ばされた少女はガードレールに頭を打ち付けられ…、巣箱から落ちた雛鳥の様に地面にころがった。
運転手は気づかなかった。
バックミラーの中で遠ざかっていくその景色の中で、消えてゆく命のことも、そしてそっとその少女の亡き骸を抱き起こしている少年がいることを…。
ドライバーの大学生はいつものようにテレビゲーム感覚で車をとばしていた。
ふとバックミラーを見ると、さっきまでは写っていなかったアメ車のスポーツカーが後ろを走っている。
黒のトランザムだ。
大学生の車はかなりのスピードがでている。にもかかわらず、そのトランザムは一瞬で追い抜き、前に出た。
と思った瞬間、トランザムのトランクが開き、中から戦闘機のジェットエンジンの様な二本の筒が現れた。
「なんだこいつっ!」
だが、間髪をおかずその右側の筒から霧状の液体が大学生の車に噴射された。
大学生が何が起こったか理解する前に左側の筒から炎が噴射された。
運転手は気づかなかった。
それが世界で最も凶悪な火焔放射器だということを…。
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