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この街には『娼婦を侮るべからす』という格言がある。
娼婦の情報網は、時として情報屋をも凌ぐことがある。
なぜなら、彼女たちこそ男の心を盗むプロだからだ。
そんな娼婦に情報屋が入れ込むと、無償で凄い情報を落とすことが間々ある。
その情報が娼婦たちの笑い話となり、流行病のように彼女たちの間だけで広がっていく。
俺は、それを期待していた。
「シルキーとかいう怪盗、実は男なんだってな」
「それ、嘘よ。話題のシルキーは女シーフなの」
「シーフだと!? おいおい、嘘だろ?」
俺はシーフごときにカズトの遺品を盗まれたってのか?
「本当よ、聞いた話だけどね」
「情報源は?」
「知らないわ。私の友達が言ってたの。けど、1人だけじゃないわ。何人からも同じ話を聞いたわ」
それならば信憑性がある。
「他には?」
「他に、って?」
「シルキーのことだ」
「あなたも情報目当てで私を買ったクチ?」
「ああ、そうだ」
俺が煙草に火を点けると、娼婦は素早く灰皿を用意した。
中々できた女だ。
灰皿のことだけではなく、仕草や喋り方にもいちいち品性がある。
俺とは真逆だ。
「それってさ、私に失礼だと思わない?」
ふてくされた態度で娼婦も煙草をくわえた。
女に人気のある、細長い煙草だ。
俺は娼婦に火を差し出した。
「金は払った。やることもやらずに金がもらえて、なにが不満だ?」
「そういう考えが不満なの」
娼婦が俺を指でさした。
「私だって、一応プロよ。こんな仕事でも誇りくらいは持ってる。このままなにもなしじゃ、プライドってものが傷つくわ」
言うじゃねーか。
俺は、この娼婦がとてつもなく気に入った。
一昔前なら高級娼婦にもなれただろう。
そんな女が、今ではタチンボだ。
この街は、ずいぶんと変わってしまったらしい。
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