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「お前さん、気に入ったよ。名はなんていうんだ?」
「紳士なら、先に名乗るべきでは?」
娼婦は涼しい顔で言ってのけた。
こっちが下手にでればこの態度である。
俺好みの、いい女だ。
「マルクス・ハントだ」
「え? あなたが?」
娼婦は驚いた顔をしたが、急に大笑いした。
「それも嘘。あなたがハントのはずがない」
「なぜ?」
俺はやや紳士的な口調を選んだ。
「だって、あの狂人はこの街にはいないわ。戻ってきたって噂もあるけど、あなたはそんな狂暴な人じゃない」
「決めつけるだけの根拠は?」
「目よ。あなた、瞳がとても綺麗だもの。私はクレア、源氏名だけどね」
クレアと名乗った娼婦は俺に握手を求めてきた。
俺はその手を握った。
「あなたの手、凄いのね。岩と握手してるみたい。ねぇ、偽ハントさん。あなたはどうしてシルキーの情報を集めてるの?」
俺は正直に教えてやった。
カズトが守った石っころの話、
それが原因で殺されたこと、
さらに、ユキが孤児院に行ったこと、
そして、そんな大切な石っころを、間抜けにもシルキーに盗まれてしまったこと。
「お友達の復讐をしようとは思わなかったの?」
「ああ、思わない」
カズトを殺せるような連中だ。
復讐するにしても、俺一人では返り討ちにあう。
そんな意味のないことに熱を上げるより、俺はカズトのガキのことを考えたい。
「それ、逃げ口上?」
クレアの言葉に、俺は笑っていた。
「どう受け取ろうが、お前の勝手だ」
「本物の男は、ベッドの中では、女に嘘を言わせない」
クレアがゆっくりとした口調で言った。
抱け、と言いたいのだろう。
抱きながら、シルキーの情報を聞き出せ、ということだ。
本当に面白い女だ。
しかし、だ。
俺は、女を抱くわけにはいかなかった。
あのクソガキのツラが、俺の頭にこびりついていたからだ。
あの石っころを探している以上、俺はユキを、そしてカズトを忘れられなかった。
さらに、もう一つ。
カズトが死んでから、俺は不能になってしまった。
今の俺は、心身ともに女を抱けなかった。
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