ブルーノ・ボナパルト

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喧嘩には2種類ある。 強者と弱者の闘いと、強者同士の闘いだ。 前者の場合、一発でカタがつくことが多い。 しかし、後者は違う。 互いに一歩も引かず、どちらかが倒れるまで殴り合うのだ。 俺は今、その殴り合いをしていた。 奴の拳が、俺の頬を強く打った。 この瞬間、俺の肺の中から大量の空気が飛び出た。 出たのなら、戻さなくてはならない。 しかし、悠長に息をしている時間はない。 7割程度の空気を吸い込み、残りの3割を犠牲にして殴り返す。 奴もまた、肺の空気を吐き出した。 俺と奴は、一切防御をしなかった。 これは、そういう勝負なのだ。 スタミナ、肺の強さを競う、技術を度外した根競べ。 楽しかった。 こんなにも楽しい殴り合いは、本当に久しい。 俺が奴の顔を殴れば、奴も俺の顔を殴った。 俺が奴の腹を叩けば、奴も俺の腹を叩いた。 蹴りのフェイントを入れて奴の顔を殴ると、奴は蹴りを放った。 フェイントを入れた俺に、奴はフェイントで返したのだ。 巧いフェイントだった。 それに、蹴り自体も強烈だ。 110キロを越す俺の体が横に飛ばされた。 距離ができた。 奴の青い目を睨むと、奴は俺が詰め寄るのを待っているようだった。 互いに、肩で息をしている。 インターバルを挟むには絶好の機会だ。 それに、俺は奴に興味を抱いていた。 どういう生き方をし、どのような過去を持ち、どんな哲学を抱いているのか。 酒でも飲めば、きっと俺と奴は意気投合するだろう。
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