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「いくつだ?」
俺が聞くと、奴は素っ頓狂な顔をした。
「年のことだ。お前、いくつだ?」
「24」
「そうか、24か」
俺は、喉の奥でクックックと笑った。
奴は俺の15も下か。
ならば、なおさら負けるわけにはいかない。
「お前の年は?」
今度は奴からの質問だ。
「39だ」
「若く見える」
「そうかい」
「俺の年を聞いて笑ったな。理由を教えてくれないか?」
「15才も離れたガキに負けるわけにはいかないからだ」
「ガキだと?」
「俺からすれば、お前はガキだ」
40間近の俺には、若い奴に負けることが絶対に許されなかった。
老いるからである。
一度でも若い奴に負ければ、一気に老いが進む。
それは、精神的に老いるだけでは済まされない。
緩んだ弦では、いい音は出せない。
楽器自体に、弾くだけ価値がなくなるのだ。
楽器なら、弦を替えるだけでいい。
しかし、それが人間の場合、引退を見定めなくてはならない。
俺は、若い頃、そういう男たちに何度となく引導を渡してきた。
渡される番が、俺にも迫っているのだ。
「今からでも遅くない。謝る気はないか?」
奴が言った。
奴は、いつぞやの情報屋の刺客だ。
「ない」
俺は短く応えた。
「死ぬぞ」
これが脅しでなく忠告であることを、俺は知っていた。
なぜなら、情報屋が最初に送り込んできた刺客が、この男だったからだ。
こんな男を駒に持つほどの男だったとは、まさに誤算だった。
「どうせ殺されるなら、お前に殺してもらいたい」
俺は本心を吐き捨てるように言った。
こいつを追い払っても、次は頭数を揃えてくることが目に見えている。
それなりの手練を何十人も相手にできるほど、俺は若くない。
「--分かった」
奴は頷いた。
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