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中庭に出てほうきを掴む。 そして中庭の噴水を囲むように人工的に規則正しく立ち並ぶ木を下から見上げる。 み~み~ 音の出所はどうやらこの林立する木にとまる蝉。 大合唱真っ只中の蝉をほうきでつっつく 「もう、くるんじゃねぇーですよ」 お嬢様は殺すよう殺虫剤を渡してきたがおいらは他の生き物は絶対に殺そうとはしない。 何故なら食べる時はまだしも他の生物を殺す権利は誰も持っていないからだ。 しかもあと余命数週間の蝉ならなおさら殺すのに抵抗がある。 なにせ、こんな醜いおいらが生きてていいぐらいだ。 そんな事を考えるとマスクに涙が流れていく。 このマスクはいらないのに触覚がある。 触ると感じるし殴られれば痛い。 ふと自虐的になりつつあるのに気づいて涙を袖で拭う。 世界にはおいら以上の悲しみを背負って生きている人もいる。 なに、世界一不幸みたいな被害者面しているんだ。 もうちょっと頑張って生きなければ
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