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焦りは禁物だ。 しかし失敗も許されない。 とにかく、擦り抜けられた拍子にアイツの毛に絡み付いて持っていかれた懐中時計。あれだけは無傷で手早く回収しなければならない。 リョーマが雨に打たれるとか、どっかに振り落とすとかする前に。 あれは僕の持ち物の中でも最も大切なものなのだから。 前屈みに固定していた姿勢を伸ばす。 深呼吸して視線を水平に。 OK。視野が広がった。 捜し物の基本。狭い範囲に意識を集中し過ぎないこと。 そしてじっと待つ。 視界の色彩がオレンジから紫。そして徐々に濃紺へ… そこで視野右隅に何かがうごめく。 いた!!! 七十メートル程離れているだろうか、ちょうど校舎の影から現れ、裏庭の躑躅の植え込みに潜り込む塊。 サイズ、動きは条件に一致。 一瞬…その塊の腰の辺りの何かが非常口ランプの光を跳ね返す。 間違いない! 捕獲という最大の難関は依然解決されないものの、かれこれ4時間ぶりに見るリョーマの姿に僕はうっかり歓喜した。 とにかく駆け寄る。 白ウサギの消えた躑躅の植え込みを掻き分け踏み込むのにも躊躇いはなかった。 柄にもなく高揚していたのだ。 それが間違いだった。
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