憶えていて

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「逃げたくないのか?」 運命と。 死から。 運命を全部受け止めたみたいな顔をした預言者に聞いた。 「運命は変えられません」 だから逃げないと預言者は言った。 もしかしたら、何故か後ろで待機している処理人の前だから言えないのかも知れない。 「このまま答えたら、処理人に殺されるってのか?」 「いいえ」 じゃあ何だってんだよ。 自分が死ぬかも知れないって時に冷静に…。 「ナニをエラんでもアナタがナくんです」 次に頭を上げたチカには、涙でぐしゃぐしゃになった顔が張り付いていた。 あぁ…こいつも生にしがみ付くんだ…。 それを見た俺はそう思った。 「俺は泣かねぇよ」 「ウソ、です…そんなこと…」 「そんなこと“あっちゃイケねぇ”って誰が決めたんだ?」 きっと、俺がこれを言うって分かっていただろう。 これから誰に何が起こるか、何を言うか、どんな行動をとるか、全部全部…手に取るように分かるだろう…。 それでも、俺は運命に抗おうとする。 「俺は絶対ぇ泣かねぇ」 正直、そうなる自信は無い。 けれど、そう言いたかった。 少しくらい予言を外してもいいじゃないか。 そう思ったから。 「ボク、モトチカさんのコトバをシンじます」 泣き笑いをしながら、彼は言った。 世の不条理を憎みもしないで…。 「モトチカさん、ジカンはオわってしまったみたいですよ」 フッと呟かれた言葉。 それと同時に引かれる鎖。 多分、彼は知っていただろう。 「長曽我部元親さん。そろそろどいてくれないと、俺困っちゃうんだけど?」 この時を…。 「モトチカさん。そのヒトはアナタにとってヒツヨウなヒトです。それでは…」 一瞬、笑ったかと思うと、すぐに下を向く。 同時に透明な液体が床に零れ落ちる。 「さようなら」 瞳からぼろぼろと涙が落ちる。 涙を堪えて歪ませた顔が、悔いているように見えた。 「それじゃあな。生まれ変わったら、また俺のところに来いよ。待っててやるから」 言葉に頷くのを見てから、俺は処理人に後を頼んだ。
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