憶えていて

7/11
前へ
/11ページ
次へ
目が覚めた時、厭な予感がした。 いつの間にか長く寝ていた俺は、気付かされる。 ―――泣いてたのか…? 枕元をぐっしょりと濡らすほどの涙。 目元が紅く腫れているだろうと鏡を見てみるが、俺のじゃない。 「起きたか、馬鹿者」 冷たい声が部屋に響く。 その横にチカの姿は無い。 ナリの様に人懐こい性格だから誰かの傍に居るはずなのに…。 俺の視線が迷った。 厭な静けさ。 「チカに切り捨て令が下った」 その言葉が元就の口から零れた瞬間、勝手に涙が溢れた。 意味が解らない。 何の欠陥も無いチカが斬られるなんて…。 「まだ…檻に居るのか…?」 真っ白になった頭で、理由も聞けずに口を開いた。 ほんの僅かな希望。 それに託すしかなくなった。 「まだ…いる…筈だ……」 彼の言葉が濁る。 鈍重な鉄塊の様になった足を引きずって廊下を走り出す。 壊される前に…。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加