憶えていて

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「モトチカさん!」 俺の顔を見留めると、チカは喜びのような悲しみのような色を顔に浮かべた。 どこと無くナリと重なる顔。 その顔は垂れた。 「…ごめんなさい…」 その言葉の意図は解っている。 頭の良いチカだからこそ、盛られたのに気が付かなかった。 元就が常用している睡眠薬を。 几帳面な彼が気付かない筈はない。 「俺はお前のそんな面見に来たんじゃねぇよ」 遠回しに“気にしていない”と言う。 最後の最後にそんな顔で別れるのは嫌だ。 「チカは俺んトコ来て、楽しかったか?」 もう時間が無い。 すぐそこまで来ている処理人。 「はい。とてもタノしかったです」 笑いながら零れた言葉。 いつもの静かな微笑みではなく、年相応の無邪気な笑み。 「いつもアカるくてオモシロいモトチカさんと」 その中にまた感情を隠して。 「シズかでレイセイなモトナリさんのトコロにこれて」 悲しく思われないようにして。 「シアワセでした」 死を見据えた瞳で微笑む。 一つの笑みの中に複数の感情を篭める。 そうして悲運な預言者は笑った。 良いことも悪いことも全部引っくるめて見えてしまう眼。 それを持っていて、彼は本当に幸せだと思えただろうか。 自分の死をも予言して…。
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