第二話 紅嵐高校

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しばらくすると顔を真っ赤にしたままの杏奈がきちんとパジャマを着て、洗面所から嫌々というふうに出てきた。 気まずいので俺は着替えを持ってそそくさと洗面所に入っていく。 着替えを放り込み、とっとと風呂場へ入る。 鏡と向かい合い、未だに鈍い痛みを残す右脇腹を確かめた。 痕にはなっていないようだ。俺の右脇腹に残っているのは4年来の付き合いであるえぐられたような傷痕1つ。 俺は傷痕を指でなぞった。 この傷痕は俺が14歳のころ。交通事故で負ったものだ。 大きな事故だったらしい。俺は助かったが両親は死んだ。 しかし俺はこの事故を知らない。覚えていないのだ。 俺は命と引き換えに両親と、そして、それまでの14年間の記憶を失った。 もう一度脇腹をよく確かめるがやはり他にはなにもない。 まるでその傷痕が他のものを拒むように。
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