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学校帰り、伸吾と別れた穹はやけに足取りが重かった。
別に実技試験が受けられなくて落ち込んでいる訳じゃない。
そもそも、諦めはとっくについている。
穹の足取りが重い理由はもっと他に、それこそ実技試験なんかよりも重大な理由だった。
帰宅の最中、穹は幾度となく溜息を吐く。
重い足取りでもいつかは目的地に辿り着くわけで、気づけば自宅の目の前に立っていた。
ドアノブに手を掛け、もう一度深い溜息。
「……ただいま」
「あっ!おかえり~」
リビングから聞こえる女の子の声。
姉、もしくは妹など穹にはいない。
……母は女の子と表記しない。
声の主はトタトタと音を立て、穹を出迎える。
穹はやけに重たい頭を上げ、声の主に帰宅の言葉を告げた。
「…………ただいま、愛花さん」
「もぅ、”さん”付けは駄目!私と穹君は同い年なんだから!」
「と言われても……」
穹は微妙な表情を浮かべ、頭をポリポリと掻いた。
橘 愛花。
親戚ではないし、ましてや知り合いでもない。
……言っておくが、彼女でもないぞ。
そんな彼女が何故当たり前のように山吹家に居るのか。
その理由は……。
「あんたは“観察者”の立場だしなぁ……」
そう。
つまりは研究対象である自分の、文字通り“観察者”であり、実技試験なんかよりも重大な悩みだった。
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