scene.Ⅰ 憧れの代償

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「…でね?結局その後…」 白く細い指で小さなグラスを燻(くゆ)らせながら、カウンターの向かいでこの一時を心から楽しむ そんな様子のお客様を見る時 この仕事について、本当に良かったと心底思う なんて 嘘ばかり。 「ねぇ、コウちゃん聞いてる?」 カチャカチャとグラスを洗いながら、フッと小さく鼻で笑い 「えぇ、もちろんですよ。それはとんだ週末でしたね」 「そーなのよっ!ドタキャンよ、アイツ?これで何度目なの!」 目くじらをたて御立腹の様子だ。 「絶対浮気してる、もう絶対よ!あーホント頭にくる…」 手を止めずに話を聞きながら、思わずクスッと笑ってしまった僕の声を彼女は聞き逃さなかった。 「あ…今、笑ったでしょ?」 「いや、すいません」 ニッコリと微笑み、そう返し 「なんだかあまりにも無邪気でストレートで…ついかわいいなって」 彼女のムッとした表情が、一瞬緩んだように見えたのは きっと気のせいなんかじゃない。
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