scene.Ⅰ 憧れの代償

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カランカラン… 話に一区切りつけ、カウンター下の棚を覗いて在庫確認をしていると 「こんばんわ、コウ」 グレーのファーコートに黒のタイトなレディーススーツ 「あぁ、真由美さん。いらっしゃいませ。…お仕事帰りですか?」 「うん、そう。金曜は来たくなっちゃうのよね、ここ」 ははっ 笑いながら開けっぱなしの足元の棚から小さな片手鍋を取り出す。 「ずいぶんお疲れです?」 赤ワインと山酒も同じ棚から取り出し、手を止めずに尋ねる。 「どーして?」 山酒を1に対して赤ワインが1.2。合わせて鍋に火をかけた。 「シャドーがいつもより濃い目ですよ。クマを隠してるとか?目もちょっと赤いですし、寝れてないのかなって」 沸騰する前に火を止めると、立ち上る湯気に混じって優しく甘い香りが鼻をくすぐる。 「そーゆーところ、カズの教育?」 ふー、っと一息つくように肩を揺らして 「どんどん似てきてるね、コウとカズ」 そう付け足し、僕の向かいに腰を下ろした。
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