真っ暗闇の白い蝋燭

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「猫ちゃん」 「うん?」 僕は猫に話し掛けてみた。 やっぱり猫は口を動かしてはいなかった。 「猫ってそりゃ猫だけど、名前くらいあるでしょ?」 「名前か、僕の名前は……そうだね。川井とでも呼んでもらおうかな」 「か、川井?」 「冗談さ」 「冗談か……」 「僕はイオン、お母さんがつけてくれた名前だよ」 「イオン……いい名前だね」 単純にそう思った。 ありがとう、と猫が言った。 少しだけだけど口が笑っているように見えた。 猫っていつも笑っているような小馬鹿にしているような口の形をしているけど、今回は本当に喜んでいるように見えた。 僕も笑ってしまった。 こんな風に猫と向き合っている人なんてそういない。 ……ここには誰もいないか。
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