1杯目

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悠翔の腕をひく少女は、それから暫く口を開かなかった。 少女は足早に暗闇の中を迷う気配もなく歩む。 どのくらい歩いただろうか。 5分かもしれないし、30分かもしれない。 時間の感覚はなかった。 「ついたわよ」 少女の手がするりとほどけ、少女は悠翔の方に振り向いた。 目の前には、ずっしりと重そうな木の扉がそびえていた。 調度目の高さあたりにかけられたプレートには、金の文字が刻まれている。 「クランベリー…」 「そう、私のお姉様のお店。 さぁ、入って。 私は自分の店に戻るから。」 少女は悠翔を扉の方に押しやると、にっこりと微笑んだ。 「大丈夫、全部うまくいくわ。 お姉様に任せれば完璧よ。」 だって私のお姉様だからね、と笑いながら言うと、少女は悠翔から離れるように歩きだした。 が、数歩進んだ所で足を止め、少女は振り返る。 「あぁそうそう。 私のお店は2階なの。 今度、ふたりでいらっしゃいな。 ほら、そこに階段があるでしょう?」 少女が指差した先には、螺旋階段がのびていた。 少女は今度こそ止まることなく歩き初め、階段の上へと消えていった。
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