3622人が本棚に入れています
本棚に追加
/475ページ
9時を少し回った頃、宴が終わり、みんな揃って店を出た。
4月に入り、気候も幾分穏やかになってきてはいたものの、夜はやっぱり冷え込む。
私は、スプリングコートの前ボタンを閉め、ストールをきつめに巻いた。
『それじゃぁ、帰りますか。』
課長のひとことで、みんなの足が駅に向かって動き出した。
『課長~。明日は家族でお出かけですか~?』
『いやぁ、子供達は習い事があるんだよ。』
『僕は妻とデートですよぉ。課長も、奥様とどうですか?』
『デートかぁ。ハッハッ。』
課長と愛実と柳井さんが、足並み揃えて話盛り上がる中、私はそれをすぐ後ろで聞いていた。
時々、話の内容につられて笑ってしまいながらも、コートのポケットに手を入れて周りをキョロキョロ見ながら歩く。
その私よりちょっぴり後ろを、藤木さんが、私と同じような格好で少し下向き加減に歩く。
金曜日というだけあって、街中はいつもよりなんとなく賑やかで、人の行き来も多かった。
駅に向かうこの道は、美容院や飲食店…お花屋さんや本屋さん、色々な店が並んでいる。
私が今の部署で働くようになって、この4月で3年目になる。けれど、この辺りを自ら探検することがなかったため、どこにどんな店があるのかまで把握していなかった。
こんな店もあるんだぁ…。
今日みたいな飲み会の帰りに、初めて目にするお店もある。だから、こういう時はあえて周りの会話には入らずに、1人景色を楽しむのがちょっとしたマイブームだったり。
.
最初のコメントを投稿しよう!