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視線がぶつかった。
今、確かに…こうして…私たちは見つめ合っている。
でも、私の方は。彼に吸い込まれそうになっている。
暗がりでも辛うじて分かる彫りの深い顔立ちが、私のハートを土台に彼の印象を彫り上げていく。
ドンッ ドンッ ドンッ…。
そのハートの扉がノックされている。
誰が叩いてるかって?
彼に決まってるじゃない。
でも、ノックする必要なんてないのに…。ノックなんてしなくたって、私から扉を開けちゃうのに…。
私の口は少し開き、息は吸ったまま止まり、目は何回も瞬きを繰り返していた。
向こう側の彼は、首をちょっぴり傾けて、確実に私を捉え直す。
その仕草だけで、私の体温が急上昇する。
それから彼は、私から視線を外さずに口許を緩めた。
『あ…。』
自分でも、何だか分からなくなって、情けない声が漏れる。
そして、私もつられるように口許を緩めてみた。
彼は、それを見届けたあと、静かに店の中へ入って行った。
彼の背中はやっぱり大きくて、Tシャツには店のロゴがプリントしてあった。
あの大きな体で抱きしめられたら、どんな感じなんだろう…。
大人の女性が夜な夜な思い描くようなコトではなくて、あどけなさ残る少女が期待に胸を膨らますような…。
そんな純粋な気持ちが、たった今、私の胸の中に生まれた。
ドンッ ドンッ ドンッ。
またこの音だ。
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