プロローグ

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そこには男が倒れていた。 真っ赤な血の海にうつ伏せになり、目を見開いたまま固まっていた。 ……そう。彼はまばたき一つせず、ピクリとも動かなかった。 その彼を見て、ジュリアも体が硬直してしまっていた。 驚きと混乱。 何よりも恐怖が彼女を支配し、動けなくさせた。 それほど男は血だらけだったのだ。 ――誰が死んでるのだろう。店の中で、一体誰が。 そう思った時、男の特徴に気がつく。 血と同じ、真っ赤な髪色。 …………悲痛に歪んだ顔のせいで、すぐに父親とわからなかった。 「パパ!!」 ジュリアは自分が血だらけになるのも構わず、男のもとへ駆け寄った。 血溜まりの中にいるのは、エドガー・アーサー。 彼女の父親だった。 「パパ!!パパ!!」 何度呼びかけても、彼は返事をしない。 彼の息は、もうすでに事切れているのだから。 彼女自身、それはわかっていた。 わかっていても、諦められなかった。 最愛の父が死んだなどと認めたくなかった。認められなかった。 けれど――亡くなった命は返らない。 「パパ…………」
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