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「ジュリア」
諦めかけたその時、彼女は呼び止められた。
その声に戸惑い、と同時に聞き間違えだと思った。
――嘘だと思った。
「ジュリア」
もう一度呼ばれた。今度は聞き間違えじゃない。
頭の中で警告が鳴る。
『振り返ってはならない』と。
けれども、彼女は真実が知りたくてゆっくりと振り返った、その聞き覚えのある声に。
・・・・・・・・・・・・・・・・
目の前で横たわっているはずの父が、そこに立っていた。
彼の唇がかすかに動く。
「――どうして、もっと早く帰ってきてくれなかったんだ?」
父は血涙を流しながら、憎しみこもった瞳で娘を睨み付けた。
「パパ……」
「ジュリアがもっと早く帰ってきてくれたら、俺は死ななかったのに」
エドガーはゆっくりと娘に歩み寄る。
その姿は、彼女の前で倒れている血だらけの格好そのままだ。
倒れている父親と、目の前に近づいてくる父親。
同じ場所に、二人のエドガーが存在していた。
ジュリアはただ目を大きく見開き、ガタガタと震えていた。
憎しみに満ちた父親なんて、一度も見たことがなかった。
ましてやその憎悪が自分に向けられるなんて、思ってもみなかった。
「……ジュリア」
エドガーはナイフを振り上げた。
「一緒に逝こう」
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