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(一九八七年初夏 スター、仕切屋)
丹念にワックスがけされた床から照り返されるライトは、澄みきった湖の水面にうつる太陽のようにまばゆく、十人の主人公達が作りあげた最高のクライマックスを大いに盛り上げる。
「いけぇ! 慎二」
名門堀河大学附属高等学校バスケットボール部の紅白戦。八十七対八十六で迎えたノータイム。
逆転のシュートを決められ一点を追う、白、一、二年生チーム。速攻しかないこの場面で彼らが最後に頼るのは、やはり、天才ルーキー今中慎二をおいて他なかった。
「あいあい」
と、やる気なさそうにパスを受けた今中の眼前には、昨年、三大大会の一つ、ウィンターカップでチームを全国二位へと引っ張った先輩達の厳しいダブルチームが待ち受けていた。
「とにかく抜かせるな!」
今中とはわざと少し距離を置いてディフェンスをする二人の片方(副キャプテン)が叫んだ。
「ふぅ……これは難題……かな?」
今中は余裕たっぷりにそう言って、微妙にドリブルのペースを変えながら二人に近づくと、両者の瞳をすっと見据えた。瞬間、二人の血走った瞳の奥に灯る炎は、消えてしまった。
今中は、あり得ないタイミング、あり得ないスピード、そして、あり得ないスペースから前へと抜け出すと、あっという間に二人を置き去りにした。
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