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「山ちゃん、遅くなってごめんね!」
「…裕翔。」
待ち焦がれたその姿が目に映った瞬間、想定外の愛しさが込み上げて
「仕事が長引いちゃって、」
彼が喋っている事なんてお構い無しに、考えるよりも先に体が動いた。
「…やまちゃん?!」
しっかりと彼の背中に回した腕。
それに続いて、おずおずと俺の背中に回された彼の腕。
「裕翔、ごめんな。今まで寂しい思いさせて。本当にごめん。」
「だ、いじょうぶだよ。」
彼の返答は震えていて、1週間前に留守番電話で聞いた声とそっくりだった。
「来てくれないかと思った。」
「ごめんね、遅くなって…。」
彼の涙。その涙はあまりに綺麗なもので、俺まで泣いてしまいそうになる。
「裕翔、好きだよ。世界中の誰よりも、一番好き。」
「お、おれもっ…!」
久しぶりに感じた彼の温もり。それを離すまいと、更に強く抱き締めた。
「山ちゃんっ、苦しいよ。」
「嬉しいくせに。」
二人でこんな風に笑うのはいつぶりだろうか。
まぁ、この際過去の事なんてどうでもいい。
「山ちゃん、もっとぎゅーってして。」
冗談っぽく言う彼は、本当に本当に美しかった。
夕日がアスファルトをオレンジ色に照らしている。
繋がれた手はふんわりと暖かく、いつもなら恥ずかしがる彼も今日はなんだか嬉しそうだった。
end
→あとがき
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