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直久と加藤は、まるで鏡のように、同時にニタリと薄気味悪い笑みを浮かべた。そして、これまた息の合った漫才コンビのように、同じタイミングで、腰を低く落とし、両手を広げて構えた。バスケットの基本姿勢だ。
「よし、来い!」
「押忍っ!」
その晩、寄宿舎が完全に寝静まった頃を見計らって、加藤は直久を外に連れ出した。その手慣れた動作に、初犯ではないな、と直久は確信した。在学中も、何度か抜け出していたに違いない。
「センセーは、こんな田んぼと畑しかないド田舎で合宿すれば、夜中に抜け出す気も起きないだろうって思ってるらしくてさ、ノーマークよ。ノーマークっていったら、抜け出ないわけにはいかないよな、バスケットマンとしては」
寄宿舎からだいぶ離れたから、もういいだろうと思ったのか、加藤は聞いてもいないのに語りだした。面倒くさいほど得意げだ。
「マークされてても、抜け出せるのがバスケットマンなんじゃ?」
「あん?」
「いえ、何でもないっす加藤大先輩」
「よろしい。では大伴直久くん、ついてきなさい」
「どこへ?」
「いいところー」
最後のセリフは、文字表記したら音符マークがついてそうだな、と直久は口端を引きつらせる。
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