一章 イケメンはつらいよ

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 本当に残念なことだが、加藤とは波長があってしまう。何年か後に、自分が後輩に同じことをしてそうな気さえしてきた。  加藤の後ろについて歩くこと十数分。  まだ目的地につかない。  いい加減、街灯も無ければ車も一台も通らない道路を歩くのも飽きた。当然、商店はおろか民家もない。道路はかろうじて舗装されているが、道幅は車一台が通るのがやっとという細さ。両側は畑と雑木林のみ。  都会のネオンに見慣れた目には、確かに満天の星空は称賛に値する。まるでプラネタリウムだ。  そろそろ、天の川ってこんなに星があったんだなぁ、なんて頭上に見惚れながら歩くのにも満足したし、首も痛い。  それに、妙に周囲の音が大きく聞こえて、落ち着かない。  都会の車の音や、漏れ聞こえる店内放送、家々の生活音の方が、よっぽど大きい気がするが、こうして田舎道を歩いていると、草木が擦れる音や虫の音、自分の足音や呼吸音の一つ一つが、きっちり聞こえてくるから不思議だ。 (さむっ……ほんと、どこまで連れて行くんだよ)  直久は、加藤の背中を追いかけながら、心の中でぼやかずには居られなかった。  七月下旬とはいえ、夜間の山里は冷える。さすが避暑地だ。半袖一枚で出て来たことを少し後悔した。 「あれ?」  ふいに、そう呟いた加藤の足が、ぴたりと止まった。
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