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何事かと、直久も加藤の横に並び、前方に目を凝らす。
「先約がいる」
加藤が驚いたように目を見開いた。
確かに、加藤の言うように、数十メートルほど先に何かあるように見えなくもない。
遠いし、月明かりだけで暗いしで、色もよくわからない。その上、動かないから何とも言えないが、人に見えなくもない。
でも、こんな時間に、こんな何にもない所に人がいるものだろうか。とにかく、周りには民家すらないのだから。
こんな所に、たった一人で、何をするでもなく立ってるなんて――。
ぞわぞわっと、心が騒いだ。
(幽霊じゃないだろうな……まさかな)
そう思ったとたん、右腕の皮膚に無数のミミズが這い上がってくるような悪寒がした。
(逃げた方がいいのか?)
どうだろう。
(逃げるべきなのか?)
わからない!
直久の瞳が動揺に大きく揺れた。
直久の思考と同調するように、急に足が重く感じて、前に進まない。
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