一章 イケメンはつらいよ

10/15
前へ
/286ページ
次へ
 ついに、五メートルほど引き離された時だった。 「こんばんは」  誰の声だ、誰の! と突っ込みたくなるほど、爽やかな声が、加藤の背中越しに聞こえて来た。  ほどなく鈴が鳴ったような可愛らしい声が答える。 「こんばんは」   (若い女の子の声だ!)  すぐさま直久の『美人レーダー』が、ピンと反応した。  急いで、加藤に追い付くと、直久は背伸びをして加藤の頭の右側から、どれどれ、とその人物をのぞき込むことに成功する。 (お! 美人!)  大きな目が印象的な、清楚な美人だった。  その笑顔は、今が満開という紅梅を思わせた。可憐さの中に、凛とした強さがある。  女子大生だろうか。少なくとも自分より歳上だな、と直久は思った。あどけなさと同時に大人っぽい色気も感じた。
/286ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3621人が本棚に入れています
本棚に追加