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加藤は、心底、邪魔するなと目で訴えながら、直久だけに聞こえるように言った。
「お前、ふざけんな」
「ふざけてないから。オレ、漏れそう!! さあ、帰りましょう! ほらほら!」
「はあ? その辺で、すればいいだろう、小便なんて!」
「やだ」
女性はそんな直久たちのやり取りを、静かに見守っていたが、見るに見かねたのか、それとも加藤に気があるのか、不吉な言葉を口にする。
「また明日」
そう彼女は言ったのだ。
まるで呪いの言葉だ、と直久は思った。
加藤は、それまでの抵抗をぴたりと止め、にこやかに彼女に手を振り始めたではないか。
「はいっ!! また明日!! おやすみなさい!」
加藤は幼児のように、大きく、何度も手を振っている。
絶対、明日もここへ来る気だ。間違いない。
直久は、ちっと舌打ちをすると、諦めたように加藤を引きずりながら、寄宿舎に向けて邁進したのだった。
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