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風は止んだ。
――それなのに、聞こえてくる草音。
右。
いや、左か。
その度に、首を振り子のようにひねり、暗闇に向かって眼を凝らす――何も見えない。
(どこだっ!?)
何が、どこから襲って来るのか。見当もつかない。それが、いっそう恐怖を煽り、心拍数を上昇させていく。
(くそっ! どこにいる!?)
どこから喰らおうか、物色されている。そう思った。
ぞわぞわと恐怖が足元から湧きあがってくる。
何してるんだ、逃げろ!
早く!!
頭では分かっていても、体が言うことをきかない。脳からの命令系統は完全にマヒしていた。
力の抜け切った腰は重く、全く立ち上がれない。
カサカサカサ……。
また草音がした。
右。左。また右。今度は一秒と空けず、次々と。
もはや人間が反応できる速度を超えていた。
刻一刻と迫ってくる――死の影。
体が敏感に反応した。全身が、がたがたと震え出し、寒くもないのに歯が鳴る。
「く、来るなあああっ!!」
叫んでみたが、日本語が通じる相手ではない。
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