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(え? 何、何? どういうこと?)
その場の雰囲気が変わったことだけは、直久にもわかった。だが、好転したとは思えない。マロが女神の逆鱗に触れたような気がしてならない。
「……我が君、何か誤解があるようだ」
「お前など知らぬ」
「我が君、私には昔も今も、貴女しかおらぬ」
返事の代わりに女神がすっと視線をそらす。
「このような惨めな成りをしてまで、貴女を追いかけてきた私の気持ちが分からぬのか?」
神である私が。
ヒトの力を借りて。
ヒトの器を借りて。
そうまでして、貴女を守りたかった――その気持ちが分からないのか?
「……」
「貴女が待っているから。貴女が私を呼ぶから」
「……黙れ」
貴女が私を思って泣くから……そのたびに貴女の悲しみの涙が雨となって降り注ぐ。
そのたびに、私がどれほど胸を痛めたか。
逢いたくても逢いに行けぬ、無力な自分にどれほど嘆いたことか。
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