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「……即刻、立ち去れ。さもなければ、その器ごと我が子の餌となろう」
「そうか……もう、私など必要なかったのだな……」
自分だけが逢いたいと思っていたのか。
自分だけが寂しく辛い日々を送っていたのか。
貴女も同じだと思っていたのは自分の勘違いだったのか。
長い、長い、長い時が……私たちをこうも変えてしまったのだな。
ならば――いっそ――。
「私を捧げよう」
最後まで、貴女のために、貴女を思って――消えゆこう。
私の残り僅かなこの力、貴女に捧げよう――。
「まだ、人間を食すより多くの力を得られよう」
女神の背中にマロが優しく語りかける。
女神は拒絶するように、何も語らない。
(なんで……そこまで……)
そこまで静かにことの成り行きを見守っていた直久の頬に、いつしか涙が伝っていた。
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