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「おい、ぼーっとしてんじゃねぇぞ」
ひとり物思いに耽っていた直久は、はっと我に返った。
声をかけて来たのは、加藤夏樹。今年の春に、なんとか高校を卒業できた上、何かの間違えでうっかり大学に合格してしまった実に運のいい男であった。
常日頃、よほど時間を持て余しているのか、母校のバスケ部に頻繁に顔を出す彼は、特にバスケの指導をしてくれるわけでもなく、直久をイジり倒して帰って行く。今回の、夏合宿にも、頼まれてもいないし、誰一人誘ってもいないのにコーチという名目のもと、同行していた。
最大限に良く言えば『明るくて面倒見がよい加藤先輩』は、部員からも人気がある、とは言い切れないまでも、嫌われてはいないのは確かだ。長身と爽やかさが売りだと信じて疑わず、ある意味、尊敬すべき先輩だった。憎めない人なのである。
「サボってないで練習しろよ、直久! よおし、俺が相手になってやる」
「良いけど、手加減しませんよ」
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