1.順子の場合

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1-2.帰り道  学校の校門の外で待ち合わせて(さすがに校内を一緒に歩くのはなんだかまだ恥ずかしかった)、そのまま駅に向かう。  くねくねした住宅街の中を通る複雑な道のりは、入学試験の時に、迷って辿り着けない受験生が出る、と噂になるくらい恐ろしく分かりづらい。話に聞いたところによると、元々この辺りはただの野原で、住宅街として開発していた隙間に、むぎゅうと詰め込まれるように高校が建てられた、らしい。担任のその言い方がおかしくて、クラス中くすくす笑いでいっぱいになったのを覚えている。  もちろん、実際は、そういう伝説が囁かれるくらいに複雑だというだけで、恐れをなした受験生は念入りに下見に来るから、実際に「遭難した」受験生は最近はいないらしい。地元のおばちゃんたちも慣れたもので、12月から1月にかけて、この辺をおろおろうろうろしている中学生のために、家に地図を常備するのが当たり前になっているらしい。いや、むぎゅうと詰め込まれたなんて表現をする担任が言うことだから、これも都市伝説なのかも知れないけど。少なくとも私は、ケータイの道案内アプリで24時間限定パスを2回だけ使って何とかなった。  今の私は、さすがにもう慣れている。先輩は言わずもがな。狭い二車線道路で大型車がすれ違おうとして寄って来ると歩道がなくなるのも想定内。人様の家の門扉の段差にひょいっと乗っかってやり過ごしたりするテクニックは、在校生ならみんな持っている。  せめてマイクロバスくらい走ればいいのにね、なんて雑談しながらてくてく歩く。実際は、ミニバンですら通っていると微妙に歩行者が緊張するような道幅だから難しいのかも知れない。あと、歩いて20分で駅、という距離感も、悪い方に絶妙なのだ。バスが出来たとしたって、1時間に2本や3本だったら歩いた方が早い。
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