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先輩と話しながらの20分は呆気に取られるくらいあっと言う間だった。駅周辺は、いかにものどかな住宅街の駅、という雰囲気。3台の駐車場を備えた黄色い看板のコンビニと、築何年なんだろうと思うような赤錆びたトタン壁の平屋のラーメン屋さんが建っている。ラーメン屋さんは、運動部員の男子の噂によると、見た目はきたねーけど味はサイコーなのだそうだ。
先輩はパスケースを鞄から引っ張り出しながら、ラーメン屋さんについて全く同じことを言った。見た目はきたねーけど味はサイコー。そうなんだ。でも女子はさすがに、学校帰りにラーメンはちょっと無理です、と答えると、そうだねと言って笑った。三谷さんはちっちゃいからあんまり食べなさそうだし。
背が低いのはコンプレックスの1つなのに、先輩に言われると不思議とイヤな感じはしない。
定期を改札にピッとタッチして、ホームに入る。同じ方向だからホームも同じ。いつもは、降りる駅で一番改札口に近いドアになるようにホームの端っこで待つことが多いんだけど、先輩が改札のすぐ近くでそのまま足を止めてしまったので、私もなんとなく横に並んだ。
同じ制服の学生たちが所在なげに電車を待つ間、先輩は時々ちらっと私の方を見て、目が合うとはにかんで逸らす、みたいなことを延々と繰り返していた。周りに同じ学校の生徒がいると、やっぱり仲良くお喋りというのは恥ずかしくて、言葉はなかった。でも、辛い沈黙では、ない。
なんていうか……変な感じ。
まるで自分が少女マンガに入り込んだみたいに感じる。あるいは、灰かぶりのシンデレラ。王子様を見てみたい、パーティに出てみたいって思っただけなのに、それ以上の僥倖が勝手に転がり込んで来ちゃった灰かぶり姫。私には、キレイなドレスなんかないから、まだ灰をかぶったままなのに。
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