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先輩が私を見る目はとても優しい。
いつから、そんな風に思われていたのかな。私みたいな子は、男の子にとって魅力的なはずはないのだけれど。髪は短いけど、ショートの方が好きという人はいないわけではないから関係ないとしても。胸はぺったんこだし。お化粧もしていないし。目は一重だし。
のんびりした静寂を破って電車が来て、乗り込む。ざわざわした車内では、生徒たちもそれぞれのお喋りや音楽やゲームに夢中で、先輩と私は「今日はちょっと混んでますね」なんて、毒にも薬にもならない話で場を埋める。
6駅過ごして電車を降りる。同じ駅で。そのまま並んで改札に向かおうとしていたその時に。
「あ、融だ! てゆーかうそ女連れ? マジで!?」
なんだか凄いテンションの女声が背後からやって来た。
驚いて見上げると、先輩はものすごくうんざりしていた。そりゃあもう、顔中に黒いマジックペンで「うざい女が来た」って書いてあるみたいなうんざりだ。
ということは、この融は先輩のファーストネームに間違いはなさそうだ。声の主が知り合いなのも。
「だ、誰ですか?」
振り向いていいものか判断がつかずに小声で尋ねた途端、がばーっと後ろから圧し掛かられた。
「きゃあっ」
柄にもなく甲高い悲鳴を上げてしまう。先輩は今まで私が見たことのない怒気をまとって振り向き、放り投げそうな勢いで私の背中に貼り付いていた相手を引っぺがした。
おまけに。
「触んな。ぜってー触んな。触ったら殴る」
うわ怖い……すごく怖い。本当に、こんな先輩、初めて見る。やっぱり男の子なんだなあ……。
周りの関心をそれ以上引かないように声は抑えていたけど、本当に殴りかかりそうに拳が震えている。
恐る恐る、引っぺがされた相手を確認する。女性だ。じゃあの声の主か。というか……。
「もしかして、あの、……夏樹さん、でしょうか」
そっくりだ。男性と女性だからそれなりに差異はあるけど、これで同じDNAを持っていないとは思えない。
「あら、なに、もう家族構成まで話すような仲なの?」
先輩に雰囲気のよく似た女性は、にっこりと楽しそうに笑った。
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