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気にするようになったきっかけは、たぶんあの夕日。
珍しく、本を読んでいない先輩を見たから。
一面のオレンジ。上条先輩は立って窓に向かって、何かを考えていた。私が入った音で目を扉の方に。光に映し出された先輩の顔。あまり日焼けしていない白めの肌。日に透けて少しだけ赤茶けて見える、コシのない柔らかそうな髪。
彼が振り向き、ぱちっと音を立てて目が合ったので、私は「失礼します」と形ばかりの会釈をして文房具棚から目的のものを探し出した。そのまま出て行こうとして、なんとなく──なんとなく、テーブルの上の、ちんまり並んでいる「文芸部」の機関紙に目を落とした。
「……あの」
どうしてそんなことを言い出したのか、あの時の私に、私自身が聞いてみたい。
「機関紙、見せてもらっても、いいですか?」
「もちろん」
想像より低い声がにっこりと笑った。私はいつしか何度もまばたきをしていた。どうしてだろう。なんでこんなに、眩しいんだろう。
笑った先輩は天使みたいだって。そんな風に思った。思ってしまってから、そのあまりに少女趣味な発想に、知らずしらず耳が熱くなっていた。何を考えてるんだろう。私は。
その日から。
カウンターで、図書委員の仕事をしながら、お客さん待ちの間に、私は歴代の機関紙をぱらぱらめくるようになっていた。
歴代の、と言っても、この学校は設立されて20年足らずの比較的若い学校で、文芸部が出来てからもまだ10年ちょっとしかない。設立された当初は、名前こそ文芸部だったけどマンガやイラストを描いている人も結構所属していたらしい。でも、「絵チーム」(上条先輩の言葉だ)は、マンガ研究会を作って分離したのだそうだ。先輩が入る直前に。
そして文芸部は(当時)2人になり、部ではなくなった。今年の春、最上級生が卒業して、先輩1人になった。
機関紙は年に1度、文化祭の時に作られるのみ。それを「活動報告」として辛うじて愛好会の地位を細々と保っている。そんな感じのようだ。
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