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でも。
今の『私』は囁いた。そうなら、そうでも、いいじゃない。いつか壊れる関係かも知れなくたって、男の人と「お付き合い」が出来るなんて、生涯で最初で最後のチャンスなのかも知れないじゃない。
傷つく準備をしておけば、きっと傷つかない。いつかは裏切られるかも知れないって、覚悟しておけばいいだけじゃない。
「じゃあ、その……手始めに、一緒に、帰るっていうのは、どうでしょうか」
私の返事に、今度は先輩が、ぽかん、としか言いようのない表情をする。
……あれ? 私、何か変なこと言ったかな。
「それ、あの、Yesに聞こえるけど。俺、解釈間違ってる?」
あ。
「いや、あの、……そうか、ええと、三谷さん、断る権利もあるよ。もちろん。先輩命令ってわけじゃないし」
どうしてだろう。断る選択肢なんて、最初から私には見えていなかった。先輩がイヤイヤやっていることだとしても、騙されて傷つくにせよ、本当に「お付き合い」するにせよ、私は……先輩を拒絶する選択肢は、全然考えていなかった。
また顔が熱くなってきた。どうしよう。私、やっぱり先輩のことを意識しているんだ。同世代のオトコなんて、みんな最低なヤツだとしか思っていなかったのに。
それまであまり顔色の変わらなかった先輩が、私が見てもあからさまに分かるくらいに頬を染めているのが見えた。なんだかそれすらも実感が沸かなくて、私の視線はぼんやりそこに固定されていまっていたらしく。
「そ、……そんなじっと見んなって。自分でも分かってんだけど……あああもう。最後まで平常心でいようと思ってたのに」
突然がばっと身を伏せて手で顔を覆ってしまった。
「え、……え? 先輩?」
「や、だから、そんな見られるとすげー恥ずかしい」
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