一章『夜の住人』

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柳の一言で黒影は我に帰った。 どうしてそんなに怒っているのか、考えてみればそうだった。 「俺はどんな記憶が無くなっているのか、それが分かっていない…ただ記憶が無いということのみ」 「まァ、君がやる気ならいいんだけどね」と柳が言ったとたん、黒影が動き出した。 一気に加速し、柳に飛びかかる。 ここまでは確かにそうだ、と柳は思い込む、しかし実際は。 柳の肩を踏み台にするようにして、黒影は飛び越えた。 「!?んなァ!!」 そのまま減速せず、駆け抜けていく。 「逃げんのかァ?」 「残念ながら、用事を思い出したからな、お前には構ってらんないわ」 「そうか、そうですカ…ヒャハハハハハハハ!食い潰してやるからよ!」 柳の体から伸びる顎が集まり、一本の太く、長い顎となった。 その大きな顎は今までの顎とは一段違う速度で黒影に襲いかかる。 完全に背を向けていた黒影は顎の発見が遅れてしまった。 「こいつは大飯喰らいだからよォ!」 「キッ!!」 ブチブチと何かが引き千切れるような音がする。
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