一章『夜の住人』

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一段と強みを増した顎の直撃は避けることができた。 しかし、黒影の髪の右のもみあげの部分を喰いちぎられてしまった。 「ッつ!!?」と焦る黒影。 「あーら・・大事な頭髪が・・キシシシ」 「別に髪が大事だったわけじゃないさ、じゃあ俺は行かせてもらう」 「どうぞ、好きにしてください、目的は達成したんでね」 すぐさま駆け出そうとする黒影だったが、違和感を感じた。 今までできていたことができなくなるような、そんな違和感。 そしてできなくなったことによる影響の大きさは、黒影に大きな精神的ダメージとして残る。 「まさか・・」 黒影の表情を見て柳は嬉々として声を上げる。 「とても辛そうな顔をしているね、奪ったものがどれだけ大きいものなのかわかるよ、おかげで顎の容量もいっぱいさ」 そんな柳の言葉は全く耳に入っていない黒影。 どうやってこの状況を切り抜けるかよりも、これからどうしていこうかということを気にしていた。 「それじゃ俺も失礼しようかな、黒影くんも忙しいでしょ?」と柳は言い残して踵を返した。 「まっ!!」 黒影は柳に向かって駆け出したが、柳はそれ上回る速度で闇に消えてしまった。 かつて夜の界を震撼させた速度で柳は消えており、黒影はそれに追いつくことができなかった。 そう、黒影は【力の支配】を失ってしまった。
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